但し、BIは比較的新しい技術でもあり、機能的にDXと親和性があることから、DXの一部としてBIが話題にあがることもよくあると思います。
私は社内で組織のDXを推進する部署にいますが、散財するデータを素早く閲覧し、簡単なデータ操作により新たなインサイトを得られる環境作りという意味で社内でBIを活用促進するミッションを与えられ、約半年間、その取り組みを行ってきました。
個人的な備忘録のためでもありますが、私がBIを社内で推進するに至った経緯やBIトレーナーとして社内でどの様な啓蒙活動を実施しているか、お話ししたいと思います。
※ここでいうBIはSelfServiceBIを指しています。
私がBIを使い始めたきっかけ
Excelが横行した業務の不便さ
私は数年前に現在の部署に異動してきましたが、前の部署と違いExcelを利用した業務が非常に多いことに驚きました。データ集計だけでなく定性情報の管理も含め、Excelデータが大量にありました。そしてそれらのデータを使って、現状分析やシミュレーション、報告用グラフの作成等もExcelで行っている状況でした。
この時に辛かったのが2点あって、まず一つ目がExcelでのデータ分析のしにくさでした。Excelでは、グラフが独立していて、グラフ間の関係性を理解するには、テーブルデータまで確認する必要がある点です。凡例をよく見比べることで、このグラフでは、Aという要素はこのぐらいの割合を占めているけど、別のグラフではこの様な時系列推移を示すんだなということは理解できますが、思考に負荷がかかりますし、そのように凡例基準で見比べることはせいぜい2つまでのグラフが限界です。
もう一つ辛かったのが、データ分析や可視化の出戻りの手間です。自分ではどんなに頑張って、分析しレポートを作成したとしても、違う分析軸で分析してくれや、可視化グラフを変えてくれ等、上司にやり直しを命ぜられると、基本的に一からのやり直しです。各々環境は異なるでしょうが、私の組織の場合Excelを使ったデータ分析や可視化業務の流れは、基幹システムからデータを収集して、Excelで他のデータソースとの結合(手作業)やグラフ化するための変換、そして可視化という、面倒な工程となっていました。ケースバイケースですが、上司に報告を却下されると、データの収集からやり直す必要があり、修正レポートの提出に数日かかることもありました。
BIツールとの出会い
上述した業務の不便さを解消するための課題は二つありました。① 従来ツールはグラフ間の連動が出来ないこと(インタラクティブな分析が困難なこと)② 従来ツールは軸やグラフを流動的に切り替えられらない(データ収集や前処理が都度発生するため不効率なこと)。
私はPythonをもともと少しかじっていたのですが、Pythonのライブラリによっては、二つの課題は解決できることは知っていました。但し、データ分析=Excelの文化である自分の組織にPythonは当然持ちこめないので、PythonとExcelの中間に位置する製品はないか探したところ、Power BIというMicrosoftのBIツールを発見しました。ブログやYoutubeを視聴して、何となくだけれども二つの課題を解決出来そうなツールだし、クリック&ドラッグ操作でPythonほど専門的な知識は要らない印象を受けたので、まさに自分が探し求めていたツールでした。
社内で操作方法を聞ける人は当然いなかったので、ブログやYoutubeをもとに勉強を進め、少しずつではありますが、業務で利用することも増えていきました。
BIの利用方法と利用上の課題やその対策
BIの利用方法
BI利用上の課題や対策
BIは比較的新しいツールなので、ExcelやPowerPointのように、webサイトやYoutubeに十分な情報が発信されているわけではありません。最近はだいぶ増えてきた印象ですが、私が学習を開始した当時は、PowerBIを扱う日本人Youtuberも2,3人ぐらいでした。なので、分からないことやつまずいていることを調べてもなかなか答えに行きつかないことがありました。それに対しては、地道にwebサイトを調べるしかないということもありますが、BIツールをひたすら操作しながらTry&Errorを繰り返して自身で解決していくしかありませんでした。
また、BIでデータ分析するにあたっては、正規化や構造化された状態にデータを前処理する必要があります。もちろん、前処理がなくてもBIの利用は可能ですが、効率的なデータ分析には前処理は必須です。しかし、私の組織含め世間的にBIを利用する文化はあまりないので、データを正規化された状態で管理されていることはほとんどなく、セルの結合や日付の横持ち、年の情報がなく月しか記録されてないなど、人が見やすい、扱いやすい形でしかデータが整理されてないはずです。それに対して当初は、Pythonを利用してデータの正規化を行っていました。しかし、Pythonだとコードをいちから書くだけでなく、データソースの変更に合わせてコードを修正する手間もありますが、わざわざPythonを介してデータを変換する作業自体が面倒でした。なので今は、ローコードかつPowerBIの一つの機能であるPower Queryを利用してデータの前処理を行っています。Power Queryはすごく便利な機能で、過去Pythonを使って前処理していたことが本当に馬鹿らしく感じます。
BIの業務導入の試みや結果、学び
初めての業務導入の試みとその結果
業務導入の経験から得た学び
結果的に私が作成したレポートは業務定着しなかったのですが、その理由は主に二つあったと考えています。
- ビジーで見にくいダッシュボードであったため
- 定量データの更新頻度が定性データに劣っていたため
①についてですが、ひとえに私の経験不足です。生産や販売、在庫の状況を一つ画面に詰め込んでいました。具体的には、グラフを4,5個使い、KPIも5,6個詰め込んでいたビジーなレポートだったため、何がポイントなのか非常に分かりにくくなっていました。パワポのスライドは1スライド1メッセージとも言われますが、BIのレポート作りにも共通するところがあり、閲覧者に理解してもらいたいストーリーやポイントを意識してレポートを作る必要があります。なので、同じことを繰り返さない工夫としては、閲覧者にヒアリングしながらモックアップ(画面案)を事前につくることと、一つの画面に情報を詰め込むのではなく、BIツールの画面遷移機能を利用して、伝えたいポイントを画面ごとに表現することです。
BIトレーニングの実施
実施背景
業務導入の際に、この経験をして痛い目に合いました。代替したい作業はExcelでグラフの色や凡例の並びや位置をかなりこだわって作成していました。PowerBIで再現を試みましたが、Excel程のグラフの見た目に対する自由度はないので、Excelに前加工を加えたり、PowerBIの中でクエリやDAXを駆使して元のExcelグラフに近づけましたが、結局ダメでした。なので、ここでの教訓はBIツールは動的にデータを分析するためのツールであって、報告資料のような静的データの可視化は、出来る部分もありますが、本筋ではないということです。更に、それをユーザーやマネジメント層がBIツールと他ツールの違いを理解し、費用対効果の高いツール選定を組織的に行える体制が必要だということも言えます。
この件を通して、BIの活用促進のためには、BIツールに対する正しい理解の浸透や適切に利用できるユーザーを組織内に増やす必要があると考えました。
準備(トレーニング方法の設計や目的設定)
抱えていた課題感を上司とも共有し、私がトレーナーになりBIトレーニングを行うことを決定しました。トレーニングを行うにあたっての実施概要を以下に示します。
ポイントは、役割別に目標を設定していることです。マネジメント層はBIの概念や特徴、簡単な操作方法の理解に留め、実務者層は自身でダッシュボード作成までを行えることを目標と定めました。
内容 | 詳細 | 対象者 | 説明方法 | 目標 | 確認方法 |
---|---|---|---|---|---|
基本事項 難易度:★ |
BI概念、PBI基本、他BIとの違い、他O365アプリやPower Platformアプリとの違いや連携、トレーニングの全体像、工場や拠点ビジュアルの共有予定の旨 | 全員 | MTG形式 | 基本事項の理解 | テスト |
操作方法 難易度:★★ |
クラウド公開されたPBIへのアクセス方法、データの参照方法(フィルター選択/解除、階層、相互、出力) | 全員 | MTG形式 | ・ダッシュボードへのアクセスができること ・操作ができること |
各自操作で指定の操作ができるかどうかチェック |
業務導入 難易度:★★★ |
PBIで得られる知識(Query、ELT、UIデザイン、データベース)、ダッシュボードの共有方法、他システムとの連携や自動更新の方法、DAX計算、データ取り込み方法、リレーション、ダッシュボード作成、データの持ち方、場面ごとの可視化事例 | 実務担当者 | MTG形式 | モデルデータをもとに指定のダッシュボードが作成できること | ・ダッシュボード作成の基本的知識が得られたかどうかテスト ・指定通りのダッシュボードが作れたかどうかチェック |
参加者への現状ヒアリングの結果
トレーニングを行う上では、現状把握のために参加者にBIに関連する事項のヒアリングを行いました。以下はそのアンケート結果の概要です。アンケート対象は約50名で工場内部門が含まれます(経理、調達、物流、生産、技術、品証、開発、経営層)
トレーニング参加者のその他関心事
- BIと他システムとの連携可否や方法
- Excelのピボットテーブルとの違い
- 業務活用を検討するために導入事例が知りたい
- 簡易的な利用・作成マニュアルがほしい
- PowerBIの特徴や機能
トレーニングの構成
テーマ | 内容 | 時間 |
---|---|---|
1回目 | PowerBIの概要理解 ① BI概念や活用方法 ② PBI特徴や活用事例 ③ PBIインストール及び簡単なハンズオン |
90分 |
2回目 | サンプルデータをもとにダッシュボード作成の実践 ① レポート作成の流れ ② Power Queryによるデータの正規化 ③ データモデリング ④ DAXによるカレンダーテーブル作成 ⑤ リレーション設定 |
90分 |
3回目 | 実務データをもとにダッシュボード作成の実践 ① 実務データと完成形ダッシュボードの紹介 ② ダッシュボード作成の実践(取込み→前処理→データモデリング→DAXによるカレンダーテーブルやKPI作成→可視化グラフやフィルター等の作成と設置) |
90分 |
4回目 | ダッシュボードにクラウド公開を実践 ① Power BI Serviceの位置付けや機能を理解 ② 作成したダッシュボードをクラウド上で他者に公開設定する |
60分 |
5回目 | 参加者ダッシュボードの紹介会 参加者が実務データをもとに作成したダッシュボードをお互いに紹介しあう |
60分 |
6回目 | データ可視化の重要性 ① BIにおける可視化機能の位置付け ② データ可視化(ビジュアライゼーション)の役割や効果例 ③ 効果的なビジュアライゼーションのポイント ④ グラフの種類と選定方法 ⑤ デザイン思考によるビジュアライゼーション作成プロセス |
60分 |
トレーニングの結果
以下参加者アンケートの結果(n = 30)
- 満足度評価:4.4(1:不満~5:満足)
- 共有されたレポートの操作が可能:実施前7% → 実施後50%
- 自分自身でダッシュボード作成が可能:実施前5% → 実施後30%
- 参加者が感じる今後の課題
- BIが取込みやすいデータの蓄積方法/管理方法:35%
- BIスキル(前処理やモデリング、DAX、作図):25%
- 読み手のニーズを満たす可視化グラフの作成:25%
- 可視化グラフの選定方法:10%
- ExcelやPowerPointとの使い分け:5%
- 参加者からの今後の要望
- DAXについてもう少し詳しいトレーニングを期待する
- 今後勉強を継続するためのサイトや本を紹介してほしい
- 技術的に分からない時に質問できる体制があるとありがたい
- ナレッジや事例を共有しあえる体制を期待する
- 継続的にスキルアップを図れる環境がほしい
- 業務活用をサポートしてくれる体制がほしい etc...
トレーニングを通して得られた学び
トップダウン アプローチ | ボトムアップ アプローチ | |
---|---|---|
テクニカル (技術的) |
BI活用のための環境作り •ITインフラ •学習体系 |
•スキル習得の試み •継続的な業務活用の取組み |
カルチャー (習慣的) |
BI活用のビジョンや指針 | 既存業務におけるデータ活用見直し •データの収集や蓄積方法 •データの可視化方法 |
参考:トレーニング期間中に挙がった参加者からの質問や要望事項(抜粋)
- 社内外の活用事例が知りたい
- 作成したレポートのクラウド発行や共有、データ更新方法が知りたい
- クラウド公開する際のセキュリティ制限や公開範囲の設定方法
- PowerBIの導入が上手くいかない事例
- 勉強に役立つ資料が知りたい
- 元データを更新するたびにPowerQueryによる前処理は必要なのか
- データ異常の検出方法はあるか?(色や背景の変化)
- DAXについて詳しく知りたい
- DAXやメジャーの活用事例が知りたい
- グラフ選定や各チャートの配置の考え方
- 複数のExcelから一つのダッシュボードまたは、複数シートから一つのダッシュボードを作ることは可能か
- 複数のダッシュボード間を行き来する方法が知りたい
- 見やすいダッシュボードの作成方法が知りたい
- データソースの変更方法が知りたい
- 見せ方の豊富なバリエーションが知りたい
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